それは一体誰なのか その2

祝う者。呪う者。
呪いながら祝う者。
祝いながら呪う者。
呪いを祝う者。
祝いを呪う者。
呪いで祝う者。
祝いで呪う者。
祝われる者。呪われる者。





戯言だよねぇ。

久しぶりに戯言を遣ってみる。
それはともかく、サンホラ考察ですよ今回も。

今日の考察対象は呪われし宝石……ではなく、11文字の伝言。
先に言ってしまうと、この曲のファンには少々酷な考察になってると思う。
まぁ、これも考察のひとつと思って、大目に見てくれるとありがたい。

では、地平線に行き詰まった諸君。
不毛の地に踏み入れた諸君。
考察を始めようか。
そうでない方々はまず、伝言の真意を知ると良い。



  • 静かに歌われし美しき幻想

正直、11文字の伝言はいい歌だと思う。
産み落とした我が子と生別れる事を定められた、哀れな母が捧げる希望の歌、それが11文字の伝言という曲である。
また、RomanのCDに含まれる曲数は11曲。
各曲に1文字ずつ、計11文字が忍ばせられ、それらを繋ぐと、この歌に歌われているのだろう11文字の伝言が出来上がる。
実際、ボーナストラックtruemessageとライブDVDでは、この11文字が伏せられる事なく歌われている。
それはささやかな祈り。
これからの生を祝う、柔らかな言葉。
優しい母の、たった一つの願い事。
そしてRomanは循環する。
巡る風車。
双子の人形。
物語は終わらない。

だが疑問が幾つも残る。
この歌。
そんな表面的に終われるものか。

  • 『賢者』も忌避する『伝言』の真意

最初の疑問。
この伝言は賢者により、忌避されている。
ここでは黄昏の賢者ではなく、朝と夜の物語を引用する。
歌の末尾。賑やかにRoman各曲のナレーションが語られる、その直前。

朝と夜の狭間 焔は揺めき 腕を伸ばせば 宝石を掴もうと
風車が廻れば 星屑は煌めき 美しき幻想 天使が別れし
葡萄酒は陶酔を 賢者も忌避する 伝言の真意 地平線は識る
右手に死(紫)を 左手に生(青)を 傾かざる 冬の天秤

ぱっと聞き、此所もその後と同じく、黄昏の賢者のフレーズを並べ替えているのかとも思えるが、細部が異なっている。
例えば、風車。
  風車が廻り続けるたび……と、
  風車が廻れば……と。
確かに違うのだ。
ゆえ、ここはここでひとつの意味を持つと考えるべきと思う。

しかし、それにしても何故?
何を忌避する事がある?

  • 右手に紫を、左手に青を

第2の疑問。
双子の人形達の言葉。

『そこにロマンはあるのかしら?』

Romanでは毎曲告げられるこの言葉。
二人に課せられたのは、Hiverが産まれるに足る『物語』の捜索。
生を司る水色の姫君オルタンシアと、死を司る紫の姫君ヴィオレットの長い旅路……
で、持ち帰ってきた、もしくは発見して調査中の物語が歌われているのだろう。
歌詞ブックレットでは各曲のページに二人のどちらかのシルエットが描かれている。
さて、11文字の伝言の場合は、といえば……両方である。
流石はラストの曲。

……と言いたい所だがちょっと待て。

実際に歌を聞いてみれば分かるが、この曲で最後の問いを放つ姫君は左側の一人だけである。
これはどういう事だろうか?
ついでに、その問いの後に台詞が続き、挙句にもう一度、歌い手の声で同じ問いが放たれる、その事実についても疑問符を浮かべよう。

  • 天使が別れし葡萄酒のユメ

第3の疑問。
同じく曲中。
こいつは穿った見方なのかもしれないけれど……それは曲そのものへの疑問。

なんで曲中の風景世界に荒廃の気配があるのか?嵐の物音といい。
轟く雷鳴といい。
そして告げられる言葉。
『ごめんなさい』と『さようなら』はともかく。
『ありがとう』だけは異質。
無事に産まれて来てくれてありがとう……?
それだけでは無い気がしてしまう。

では……一体、何にありがとうなのだろう?

もう一つ。
彼女は言う。
昨日のことのように思い出す、と。
産んで直ぐの別れならば、昨日のことのように……とは言わないだろう。
と言うか、この言葉は半年とかそれぐらい経って初めて言われるようになるものではなかろうか。
では、この生別れは一体いつ発生したものなのだろう?

  • 嘘を吐いているのは誰か

最後の疑問。
最大の疑問。
割と単純な疑問。
単純に過ぎて、逆に誰もが素通しする疑問。
伝言の真意を掴んでいる我々をして、既に知っている筈の簡単な事実に対する疑問。

11文字の伝言は、2曲ある。
何故か?

これだけならば答は単純と皆が言うだろう。
11文字の伝言の部分を、CDでは伏せ、ボーナストラックでは明確に歌うようにしたからだ、と。
だが、本当にそれだけだろうか?
いや、そもそも。
何故、CDではその11文字を伏せたのか?
暗号を暗号として明示するため……?
それにしては、2つの『11文字の伝言』に違いが無さ過ぎる。
なぜ、わざわざ同じと言えるほど差の少ない2曲が用意されたのか?
いやいや、そもそも。
この二つ、どう聞いても全く同じにしか聞こえないこの2曲は、本当に同じ歌なのか……?

  • 朝と夜の狭間

さぁ、考えようか。
最初の疑問から順々に。

最初の疑問への俺の解。
賢者の忌避は仕方あるまい。
理由など簡単に分かる所だ。
あくまで伝言の真意である。
つまり、呪いの11文字。
屋根裏物語に至るあの11文字を、朝と夜の物語で既に把握し、忌避していた……それだけの話だ。
そう、ゆえに伝言は忌避される。
祝福の伝言だけでは無いのだから。

第2の疑問への俺の解。
双子の人形の解釈が根本的に間違っている。
ブックレットをよく見れば分かる所なのだが……
各ページ、随所に穴があり、その穴に誰かが触れている場合、窓の向こうにキーワードが書かれている。
最初のキーワードは目次に覗く『朝と夜』で、最後のキーワードは『地平線』である。
さて。
各キーワードの映る窓をよく見るとこんな事が言える。

    • 『朝と夜』を抱えるのはHiver
    • 『地平線』を抱えるのは双子の人形が揃いで
    • 『焔』から『伝言』まではオルタンシアに始まりヴィオレットと交互に

さて、実際に曲を聞いてみよう。
『そこにロマンは〜』を告げているのは誰か?

    • 朝と夜の物語……最後の喧騒に紛れた双子の他に曲冒頭あたりでHiverが
    • 焔〜11文字の伝言……双子の片方が交互に一人で左右の一方から
    • 屋根裏物語……双子の両方が左右同時に

さて。共通項が此所に見えて来る。
屋根裏物語が『地平線』に該当するとすれば……
物語を問うのは、該当するキーワードが映る窓に触れている者、と言える。

此所で追加の考察を。
『焔』に触れているのは水色の影であり、そして焔の最後で物語を問う声は右側から聞こえて来る。
右手に生を連れているのに右側から声がするのはどういう事か、という話になるが、これは単純に観測位置が違ってるだけの話。
左手に生、右手に死の姫君を連れているのは冬の天秤でありHiverである。
そのHiverは朝と夜の物語を歌う歌い手であり、決して聞き手では無い。
我々は聞き手であり、Hiverとは向かい合う位置に在るとなれば。
ジャケット絵を見れば分かるとおり、聞き手から見て右側にオルタンシアが立つ事になる。
ゆえに、オルタンシアの問いが右から掛けられる事に問題は無い。

もう一つ、メタな話を入れるなら。
朝と夜の物語でHiverは歌う。
『産まれて来る前に死んでゆく僕のRoman』
生の前に死ありき。
とすれば、死としてのHiverを先頭に、ついでに生のオルタンシア、死のヴィオレット、後は青と紫が交互というこの並びは実に納得できる物と言える。

さて、これらを踏まえて『伝言』の場合を考える。
伝言の文字を映す窓に触れるのは紫の影である。
実際、伝言での問いは左側から聞こえて来る。
ということは。
この11文字の伝言を運んで来たのはヴィオレットに違いあるまい。
死から始まる交互という点を考えても、そこに矛盾は無い。
生を祈る筈のこの歌を、なぜ死の姫君が運んだのか……この新たな疑問は、しかしひとつの仮定を置くだけで、すぐに解けるだろう。

  • 傾かざる冬の天秤

第3の疑問への俺の解。

解と言うより解釈か。

嵐の中の別れ歌での、ごめんなさいとありがとう。
強く生きることを祈る歌。
だが、それがそうで無いとすれば。

不思議な歌詞がひとつある。
『あなたを生んだのが誰であれ本質は変わらない』
さて……この箇所は何を言っているのか。
母との別れとしては奇妙な歌詞である。
本質は変わらない……これが『私が産んだ子』とすると、この文は意味不明になる。
『あなたを産んだのが誰であれ私の産んだ子である事は変わらない』
ほら。意味不明。
かと言って、私が産んだ事を否定するにもし辛い。
第1パートで『あなたを産めた事は私の誇りでした』とまで歌っているのだから。
あるいは第1パートと第2パートが繋がって無いという仮説も置けるが、これはサンホラの曲として有り得ない。
ではこの歌詞、何が起こっているのか?
此所で仮説。
根拠に弱い所だが……
あなたをうめた事は私の誇り。
この『うめた』が『産めた』ではなく『埋めた』のであれば?
突拍子も無い事のようだが、掲げる根拠は2つ。
この11文字の伝言が『死』の歌であるという結論と。
次に挙げる最後の疑問への解と。

つまり俺はこう思っているのだ。
11文字の伝言は根っからの呪い歌であり。
全ての祝いが呪いである歌なのだと。
騙すがゆえにサヨウナラ。
騙したがゆえのゴメンナサイ。
騙されてくれてアリガトウ。
祝いが、呪いに変わる歌。
祝いで、呪いを歌う歌。
誰ぞを埋めた誇り。
生贄の本質は変わらない。
さぁ、凛と逝きなさい。
実はそんな歌ではないのか。

  • 腕を伸ばせば宝石を掴もう

最後の疑問への俺の解。
分かたれし二つの伝言の意味。
一方は歌詞を伏せてCDへと納められる。
一方は存在を伏せてネットの海に沈む。
差分は僅か11文字を歌うか否か。
だがその違いは、致命的に重要な点を孕む。

ネットに沈んだ11文字の伝言は、そのファイル名を『truemessage』とされている。
訳すると『真の伝言』となる。
もしくは『本当の伝言』と言うべきか。
清かに穏やかに歌い上げられる祝いの伝言。

では、その対となる伝言は。
11文字の伝言……そう呼ばれている歌の、真実の……あるいは単に隠された……名は?
この辺りは想像の域を出なくなる所ではあるが、しかしあえて言うならば。
trueの対義。真の対義。本当の対義。
false、偽、嘘。
即ち、falsemessage、偽の伝言、嘘の伝言。

あの歌のどこに嘘があるのか。
それは意外にあっさりと示せる問いだ。
なぜ、この歌は歌詞通り、正しく歌われていないのか。
なぜ、暗号で覆われた歌詞をラララ……で歌うのか。


歌詞カードと異なる歌詞が歌われているとしたら?


並び変えた11文字、呪いに塗れた11文字が、この歌で歌われているのならば。
それを伏せるが為のラララ……だとすれば。
11文字の伝言として挙げられた歌の虚偽がそこにあるならば。

此所までに挙げた疑問の全てに対する俺の見解に、どこか納得できる要素を感じられないだろうか……?

  • 壊れた人形 骸の男

かくして俺の結論は此所に至る。
11文字の伝言は死の歌に分類される呪い歌であり、嘘を孕んだ夜の歌である、と。
所詮は一つの解釈であり、これが正解とは言わないし言えはしないが。

だが、これが新たな解釈への、礎となるならば幸いだ。
皆の見解はどうなのだろうね?